当サイトでは、看護学生や新人看護師のために、NANDA-Iの看護診断に基づく看護計画&看護記録の記載例・書き方を多数ご紹介しています。
今回は、NANDA-I領域11の看護診断「損傷リスク状態」の患者の観察ポイントを解説してまいります。
損傷リスク状態は、看護診断の中でも使用頻度が高く、しっかりと抑えておくべき診断の一つです。
記事の最後には、看護計画と看護記録(SOAP)の記載例を公開しており、すべてコピペ可です。
あくまでも一例であり、所属している病院や法人によって、書き方やルールは異なる場合も考えられますので、各自カスタマイズしてご活用ください。
損傷リスク状態(NANDA-I領域11)とは
損傷リスク状態とは、身体的、心理的、または環境的要因により、体組織や器官が損傷を受ける可能性が通常より高まっている状態を指します。
損傷には外傷や圧迫、炎症、感染などによるものが含まれます。
この状態における早期介入と予防が、患者の安全を確保する上で重要です。
損傷リスク状態(NANDA-I領域11)の原因
損傷リスク状態(NANDA-I領域11)を引き起こす主な原因は以下の通りです。
身体的要因
- 筋力低下や運動機能障害(例:高齢者、神経疾患、脳卒中後の患者)
- 骨密度の低下(例:骨粗鬆症)
- 感覚鈍麻や麻痺(例:糖尿病性神経障害、脊髄損傷)
- 免疫機能の低下(例:がん患者、免疫抑制剤の使用)。
心理的要因
- 意識障害や認知機能の低下(例:認知症、せん妄)
- 精神疾患による自己管理能力の低下(例:うつ病、統合失調症)
環境的要因
- 病室内や家庭内の転倒しやすい構造物(例:床の滑り、段差)
- 医療機器の使用(例:留置カテーテルや点滴ライン)
- 適切な介護やサポートの不足
医療的要因
- 手術後や治療後の組織脆弱性
- 血液凝固異常(例:抗凝固療法中の患者)
- 薬剤の影響(例:鎮静薬、睡眠薬、降圧薬)
損傷リスク状態(NANDA-I領域11)の評価方法
損傷リスク状態(NANDA-I領域11)を評価する際には、以下の方法が用いられます。
身体的評価
- 筋力、関節可動域、感覚機能の低下を確認
- 骨格や姿勢の異常(例:骨粗鬆症による変形)
- 皮膚の脆弱性(例:褥瘡リスク、創傷の有無)
リスクスケールの活用
- ブレーデンスケール:褥瘡リスクの評価
- モールス転倒スケール:転倒リスクの評価
患者背景の評価
- 過去の損傷歴や既往歴(例:骨折、転倒)
- 使用している薬剤の種類や副作用のリスク
環境評価
- 病室や家庭内の危険箇所を特定
- 使用している補助具(例:杖、車椅子)の安全性確認
患者や家族の訴えの聴取
- 転倒やつまずきの経験、筋力低下やふらつきの訴えを確認します。
損傷リスク状態(NANDA-I領域11)の治療方法
損傷リスク状態(NANDA-I領域11)は、原因や症状に応じて以下の方法を行います。
環境整備
- 滑り止めマットや手すりの設置
- ベッドの高さ調整や転倒防止策の導入
- 病室や家庭内の整理整頓を徹底する
補助具の活用
- 歩行補助具(例:杖、歩行器)の使用を推奨
- 転倒防止用の靴やサポート具の提供
身体機能の強化
- リハビリテーションで筋力やバランス感覚を改善
- 栄養管理を徹底し、骨や筋肉を強化する
適切な医療管理
- 使用中の薬剤を見直し、副作用(ふらつき、低血圧など)のリスクを軽減
- 定期的な骨密度検査や血液検査を実施する
患者教育
- 転倒予防や安全な移動方法を指導
- 事故が発生した場合の対応方法(救急連絡、適切な処置)を説明
損傷リスク状態(NANDA-I領域11)の患者をケアする上で気をつけること
損傷リスク状態(NANDA-I領域11)の患者をケアする際には、以下の点に注意する必要があります。
早期のリスク発見
リスクの高い患者を迅速に特定し、適切な介入を行う。
安全な環境の提供
患者が安心して活動できる環境を整備し、危険を最小限に抑える。
患者への声かけ
転倒やつまずきの可能性がある行動を防ぐため、移動時に声をかける。
チームでの情報共有
リスクに関する情報を医療スタッフ間で共有し、ケアの一貫性を保つ。
心理的サポート
患者の不安を軽減し、安全に活動するための自信を持たせる。
損傷リスク状態(NANDA-I領域11)の看護計画を立案する上でのポイント
損傷リスク状態(NANDA-I領域11)の看護計画(観察計画、援助計画、行動計画)は、以下のポイントに注意をして立案すると良いでしょう。
観察計画(O-P)の立案ポイント
患者の身体状態や環境を注意深く観察します。
特に、筋力やバランス、転倒の有無、使用中の薬剤による影響を記録します。
援助計画(T-P)の立案ポイント
患者が安全に移動できるよう、補助具の使用を支援します。
また、身体機能を強化するリハビリテーションを推奨し、日常生活での危険行動を防ぎます。
教育計画(E-P)の立案ポイント
患者とその家族に転倒予防策や安全な移動方法を指導します。
特に、事故が起きた場合の対応方法や、環境調整の重要性について説明します。
損傷リスク状態(NANDA-I領域11)の看護計画の記載例・書き方
看護診断 | #1 損傷リスク状態 |
患者目標 | 長期目標:損傷を予防し、安全に日常生活を送ることができる 短期目標:転倒や外傷が発生せず、安全に移動できる環境を整備できる |
観察計画(O-P) | 患者の筋力やバランス能力を観察する。 転倒歴やつまずきの頻度を確認する。 病室や家庭内の環境(段差、床の滑りやすさ)を点検する。 使用中の補助具(杖、歩行器)の安全性を確認する。 薬剤使用の状況(種類、量、副作用)を記録する。 患者の血圧や脈拍を測定し、起立性低血圧の有無を確認する。 視力や聴力の低下がないか観察する。 患者が不安や恐怖を感じていないか聴取する。 日常的な動作(例:椅子からの立ち上がり)の安全性を評価する。 骨密度検査や既往歴(骨折、骨粗鬆症)を確認する。 |
援助計画(T-P) | 転倒防止用マットや手すりを病室や家庭内に設置する。 歩行時に付き添い、安全を確保する。 必要に応じて杖や歩行器を提供し、その使用方法を指導する。 リハビリテーションを支援し、筋力やバランス感覚を強化する。 睡眠薬や降圧薬の使用に注意し、ふらつきを防ぐ。 起立性低血圧を予防するため、急激な体位変換を避けるよう指導する。 栄養管理を徹底し、骨や筋肉を強化する食品を提供する。 家庭環境の危険箇所(段差、滑りやすい床)の改善を提案する。 靴や衣服が安全かつ適切であるか確認する。 患者が動作を行う際に、不安を軽減する声かけを行う。 |
教育計画(E-P) | 転倒リスクを軽減するための環境整備方法を説明する。 歩行補助具の正しい使用方法を指導する。 急激な体位変換が転倒を引き起こす可能性について説明する。 安全な靴や衣服の選び方を教える。 栄養管理が骨や筋肉の強化に寄与することを説明する。 転倒の初期兆候(めまい、ふらつき)を把握する方法を指導する。 医師や看護師に相談するタイミングを患者と家族に説明する。 外出時や日常生活での安全対策を具体的に教える。 事故が発生した際の対処法と緊急連絡の方法を指導する。 リハビリや運動を通じて転倒リスクを軽減する重要性を伝える。 |
看護計画作成におけるルールは、コチラの記事(【完全保存版】看護計画の作成ルールと記載例まとめ【NANDA- I】)を参考にしてください!
【完全保存版】看護計画の作成ルールと記載例まとめ【NANDA- I】
続きを見る
損傷リスク状態(NANDA-I領域11)の看護記録(SOAP)の記載例・書き方
看護診断 (看護問題) | 損傷リスク状態 |
S(主観的情報) | 「最近、歩いているとふらつくことがあります。」 「ベッドから立ち上がるときに怖い感じがします。」 |
O(客観的情報) | 起立時に血圧低下(120/80→100/60mmHg)が見られる。 歩行時に杖を使用しているが、バランスが不安定。 病室の床に滑りやすいマットが敷かれている。 モールス転倒スケール:45点(高リスク)。 |
A(評価) | 筋力低下と環境要因が転倒のリスクを高めている状態。 |
P(計画) | 起立時のふらつきを防ぐため、ゆっくりと体位を変更するよう指導する。 病室内の滑りやすいマットを交換し、転倒リスクを軽減する。 リハビリを通じて筋力とバランス能力を強化する。 モールス転倒スケールを週1回実施し、リスクを評価する。 安全に歩行するため、杖の使用方法を再確認し、調整する。 起立性低血圧を予防するため、水分摂取を促進する。 転倒予防用手すりをベッドサイドに設置する。 患者と家族に転倒時の対処法と緊急連絡先を説明する。 栄養士と連携し、骨や筋肉を強化する食事を提案する。 転倒に対する不安を軽減するため、心理的サポートを提供する。 |
看護記録(SOAP)作成におけるルールは、コチラの記事看護記録(【完全保存版】「SOAP」の書き方と記載例まとめ【NANDA-Iの看護診断対応)を参考にしてください!
【完全保存版】看護記録「SOAP」の書き方と記載例まとめ【NANDA-Iの看護診断対応】
続きを見る
NANDA-Iの看護診断に基づく看護記録(SOAP)&看護計画の記載例まとめ
当サイトでは、今回ご紹介した領域の他にも、NANDA-Iの看護診断に基づく看護記録(SOAP)&看護計画の記載例を多数まとめています。
ぜひ、日々の業務のご活用ください!
看護記録(SOAP)の記載例
看護計画の記載例
引用・参考文献
T. ヘザー・ハードマン 編,上鶴 重美 訳:NANDA-I看護診断 定義と分類 2020-2023.医学書院.