当サイトでは、看護学生や新人看護師のために、NANDA-Iの看護診断に基づく看護計画&看護記録の記載例・書き方を多数ご紹介しています。
今回は、NANDA-I領域4の看護診断「心拍出量減少」の患者の観察ポイントを解説してまいります。
心拍出量減少は、看護診断の中でも使用頻度が高く、しっかりと抑えておくべき診断の一つです。
記事の最後には、看護計画と看護記録(SOAP)の記載例を公開しており、すべてコピペ可です。
あくまでも一例であり、所属している病院や法人によって、書き方やルールは異なる場合も考えられますので、各自カスタマイズしてご活用ください。
心拍出量減少(NANDA-I領域4)とは
心拍出量減少とは、心臓が全身に十分な血液を送り出す能力が低下した状態を指します。
心拍出量は「1回拍出量(心臓が1回の拍動で送り出す血液量)×心拍数」で計算され、この値が低下すると全身の臓器や組織への酸素供給が不十分になり、さまざまな合併症を引き起こす可能性があります。
心拍出量減少(NANDA-I領域4)の原因
心拍出量減少(NANDA-I領域4)を引き起こす主な原因は以下の通りです。
心筋収縮力の低下
- 心筋梗塞や虚血性心疾患
- 心筋症(例:拡張型心筋症)
- 心不全
前負荷の異常(静脈還流の変化)
- 出血や脱水による循環血液量の減少
- 静脈還流障害(例:静脈血栓症)
後負荷の異常(動脈の抵抗の変化)
- 高血圧による末梢血管抵抗の増加
- 弁膜症(例:大動脈弁狭窄症)
心拍数の異常
- 徐脈(例:洞不全症候群、完全房室ブロック)
- 頻脈(例:心房細動、心室頻拍)
その他の要因
- 心タンポナーデ(心嚢液貯留による圧迫)
- 緊張性気胸
- 感染性ショックや敗血症性ショック
心拍出量減少(NANDA-I領域4)の評価方法
心拍出量減少(NANDA-I領域4)を評価する際には、患者の症状や身体所見、検査結果を基に包括的な評価を行います。
症状の確認
- 疲労感、倦怠感
- めまい、失神
- 息切れや呼吸困難(特に運動時や横になると悪化)
- 四肢の冷感や浮腫
身体所見
- 血圧低下や脈拍異常(弱い脈拍、頻脈、徐脈)
- チアノーゼや皮膚の冷感
- 頸静脈怒張(右心不全の兆候)
- 肺水腫による湿性ラ音
検査
- 心エコー検査:左室駆出率(LVEF)の測定や心臓の形態評価
- 心電図(ECG):不整脈や虚血性変化を確認
- 胸部X線:心拡大や肺うっ血の有無を評価
- 血液検査:BNPやNT-proBNP値(心不全のマーカー)
- 動脈血ガス分析(ABG):酸素供給の状態を評価
症状の重症度分類
- ニューヨーク心臓協会(NYHA)の分類を用いて日常生活への影響を評価します。
心拍出量減少(NANDA-I領域4)の治療方法
心拍出量減少(NANDA-I領域4)の治療は、原因や症状に応じて以下の方法を行います。
薬物療法
- 強心薬:心収縮力を増強(例:ドブタミン、ドパミン)
- 利尿薬:肺うっ血や浮腫を改善(例:フロセミド)
- 血管拡張薬:後負荷を軽減(例:ニトログリセリン、ACE阻害薬)
- β遮断薬:心拍数を制御し、心筋の酸素消費を抑制(例:カルベジロール)
- 抗不整脈薬:不整脈の管理(例:アミオダロン)
酸素療法
酸素投与により、低酸素血症を改善します。
重症例では人工呼吸管理を行う場合もあります。
体液管理
血液量が減少している場合は輸液を行い、前負荷を適正化します。
過剰な体液がある場合は利尿薬で調整します。
機械的サポート
- 大動脈内バルーンパンピング(IABP):心臓のポンプ機能を補助
- 左心補助装置(LVAD):重症心不全患者へのサポート
根本的な治療
- 弁膜症の場合は手術(例:弁置換術)
- 冠動脈疾患の場合は冠動脈バイパス術(CABG)や経皮的冠動脈形成術(PCI)
心拍出量減少(NANDA-I領域4)の患者をケアする上で気をつけること
心拍出量減少(NANDA-I領域4)の患者をケアする際には、以下の点に注意する必要があります。
バイタルサインのモニタリング
血圧、脈拍、SpO₂、呼吸数の変化を注意深く観察します。
活動制限
症状が安定するまで無理な運動を避け、エネルギー消費を最小限に抑えます。
体位管理
起座位をとり、呼吸を楽にする体位を確保します。
心理的サポート
呼吸困難や疲労感に対する不安を軽減するため、安心感を与えるケアを提供します。
患者教育
症状悪化の兆候(例:息切れ、体重増加)の早期発見と対応を指導します。
適切な薬剤管理と生活習慣改善の重要性を説明します。
心拍出量減少(NANDA-I領域4)の看護計画を立案する上でのポイント
心拍出量減少(NANDA-I領域4)の看護計画(観察計画、援助計画、行動計画)は、以下のポイントに注意をして立案すると良いでしょう。
観察計画(O-P)の立案ポイント
心拍出量や全身の酸素供給状態を反映する指標(バイタルサイン、尿量、意識状態)を観察します。
また、浮腫や肺うっ血の進行をモニタリングします。
援助計画(T-P)の立案ポイント
患者が安静に過ごせるよう環境を整え、適切な体位管理や酸素療法を提供します。
また、薬物療法の効果を評価し、副作用を最小限に抑えるケアを行います。
教育計画(E-P)の立案ポイント
患者とその家族に対して、病態や治療法をわかりやすく説明します。
特に、生活習慣の改善(減塩、運動、禁煙)や、症状悪化時の対応方法について具体的に指導します。
心拍出量減少(NANDA-I領域4)の看護計画の記載例・書き方
看護診断 | #1 心拍出量減少 |
患者目標 | 長期目標:心拍出量が改善し、全身の酸素供給が十分に行われる。 短期目標:1週間以内に疲労感や息切れが軽減し、バイタルサインが安定する。 |
観察計画(O-P) | 血圧、心拍数、呼吸数を毎日記録し、変化を確認する。 尿量を測定し、循環血液量の変化を把握する。 チアノーゼや末梢冷感の有無を確認する。 浮腫の進行状況(足背、仙骨部)を観察する。 呼吸音を聴取し、肺うっ血や水腫の兆候を確認する。 BNP値や動脈血ガス分析の結果を定期的に確認する。 患者の疲労感や倦怠感の程度を聴取する。 心電図を定期的に記録し、不整脈の有無を確認する。 体重の増加や減少を毎日記録し、体液バランスを評価する。 痛みや不快感がないか聴取し、適切な対処を行う。 |
援助計画(T-P) | 起座位を保持し、呼吸を楽にする体位を確保する。 酸素療法を実施し、SpO₂を95%以上に維持する。 医師の指示のもと、利尿薬や血管拡張薬を投与する。 食塩摂取量を制限し、栄養士と連携して減塩食を提供する。 患者が疲労を感じた場合は、適切な安静を促す。 心エコーや血液検査の結果を医師と共有し、治療計画を調整する。 浮腫の軽減のため、足を高く上げる体位を推奨する。 心理的ストレスを軽減するため、リラクゼーション法を提案する。 バイタルサインが急激に変化した場合は速やかに医師に報告する。 必要に応じて補助循環装置(IABP)の管理をサポートする。 |
教育計画(E-P) | 心拍出量減少の原因と治療法を説明し、患者の理解を促す。 症状悪化の兆候(息切れ、体重増加)を早期に発見する方法を指導する。 減塩や栄養バランスを意識した食事の重要性を説明する。 安静を保ちながら、日常生活で無理のない範囲で活動を行う方法を提案する。 薬剤の服用スケジュールや副作用について説明する。 体重を毎日記録し、体液バランスを管理する重要性を説明する。 禁煙や適度な運動の重要性を指導する。 不整脈や胸痛が出現した場合、速やかに医療機関に連絡するよう指導する。 家族に対しても看護計画を共有し、患者のサポートを促す。 定期的な医療機関での受診の重要性を説明し、フォローアップ計画を立てる。 |
看護計画作成におけるルールは、コチラの記事(【完全保存版】看護計画の作成ルールと記載例まとめ【NANDA- I】)を参考にしてください!
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心拍出量減少(NANDA-I領域4)の看護記録(SOAP)の記載例・書き方
看護診断 (看護問題) | 心拍出量減少 |
S(主観的情報) | 「歩くとすぐに息が切れます。」 「横になると胸が苦しくなります。」 |
O(客観的情報) | 血圧:90/60mmHg、心拍数:110回/分(頻脈)。 SpO₂:92%(酸素投与なし)。 頸静脈怒張あり。 足背に浮腫(+2)を認める。 呼吸音:両側で湿性ラ音を聴取。 |
A(評価) | 心拍出量減少に伴う呼吸困難と肺うっ血が進行している状態。速やかな酸素療法と利尿薬投与が必要。 |
P(計画) | 酸素療法(鼻カニューレ、3L/分)を開始し、SpO₂を95%以上に維持する。 医師に報告し、フロセミド投与を依頼する。 起座位を保持し、呼吸を楽にする体位を確保する。 浮腫軽減のため、足を高くするよう体位を調整する。 血圧、心拍数、尿量を1時間ごとにモニタリングする。 患者に体重を毎日記録するよう指導する。 心電図モニタリングを実施し、不整脈の発生を確認する。 食塩制限食を提供し、患者の摂取状況を確認する。 症状が悪化した場合、IABPなどの補助循環装置の準備を検討する。 患者と家族に治療計画を説明し、安心感を与えるケアを行う。 |
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NANDA-Iの看護診断に基づく看護記録(SOAP)&看護計画の記載例まとめ
当サイトでは、今回ご紹介した領域の他にも、NANDA-Iの看護診断に基づく看護記録(SOAP)&看護計画の記載例を多数まとめています。
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看護記録(SOAP)の記載例
看護計画の記載例
引用・参考文献
T. ヘザー・ハードマン 編,上鶴 重美 訳:NANDA-I看護診断 定義と分類 2020-2023.医学書院.