当サイトでは、看護学生や新人看護師のために、NANDA-Iの看護診断に基づく看護計画&看護記録の記載例・書き方を多数ご紹介しています。
今回は、NANDA-I領域9の看護診断「慢性悲嘆」の患者の観察ポイントを解説してまいります。
急性疼痛は、看護診断の中でも使用頻度が高く、しっかりと抑えておくべき診断の一つです。
記事の最後には、看護計画と看護記録(SOAP)の記載例を公開しており、すべてコピペ可です。
あくまでも一例であり、所属している病院や法人によって、書き方やルールは異なる場合も考えられますので、各自カスタマイズしてご活用ください。
慢性悲嘆(NANDA-I領域9)とは
慢性悲嘆とは、通常の悲嘆プロセスが長期化し、心理的、社会的、身体的な適応が困難な状態を指します。
愛する人の死別や重大な喪失(例:健康、仕事、人間関係)をきっかけに発症することが多く、時間が経過しても悲しみや苦痛が軽減せず、日常生活に支障をきたす特徴があります。
この状態では、正常な悲嘆反応を超えて強い持続的な悲しみ、不眠、不安、無気力などが見られ、適切なケアと介入が必要です。
慢性悲嘆(NANDA-I領域9)の原因
慢性悲嘆(NANDA-I領域9)の原因は個々の状況や背景によって異なりますが、以下のように分類されます。
個人要因
- 故人や喪失対象への強い依存
- 既往歴としての精神的な問題(例:うつ病、不安障害)
- 弱いストレス耐性や対処能力の不足
喪失の状況
- 突然の死(事故や自殺)や暴力的な喪失
- 故人や対象との関係が特別に親密であった場合
- 喪失が複数回重なる場合(例:短期間で複数の死別)
社会的要因
- 支援ネットワークの欠如
- 周囲の理解や共感が得られない状況
- 喪失に関連する経済的、社会的な負担(例:家族の収入源の喪失)
慢性悲嘆(NANDA-I領域9)の評価方法
慢性悲嘆(NANDA-I領域9)を評価では、悲嘆の程度、持続期間、日常生活への影響などを詳細に把握することが重要です。
主観的評価
- 「悲しみを感じることがどのくらいありますか?」
- 「最近、喪失に関連してどんなことを考えていますか?」
- 悲嘆の強さや頻度、持続期間を確認します
客観的評価
- 患者の表情、態度、言葉遣いを観察し、悲嘆の影響を評価
- 社会的孤立や日常生活の困難さの有無を確認
標準化された評価ツール
- 悲嘆の影響尺度(Impact of Event Scale):悲嘆やトラウマ反応を測定する
- 悲嘆評価質問票:悲嘆反応の強さや特徴を把握する
合併症の評価
- 慢性悲嘆が引き起こす可能性のあるうつ病、不安障害、身体症状(頭痛、不眠、食欲不振)を確認します
慢性悲嘆(NANDA-I領域9)の治療方法
慢性悲嘆(NANDA-I領域9)に対する治療では、心理的支援を中心に、多角的なアプローチが必要です。
心理療法
- グリーフカウンセリング:悲嘆プロセスをサポートし、感情の整理を支援する
- 認知行動療法(CBT):悲嘆に関連する否定的な認知や思考パターンを修正する
- トラウマフォーカストセラピー:特に悲嘆がトラウマ反応を伴う場合に有効
サポートグループ
- 同じような悲嘆を抱える人々との交流を通じて孤立感を軽減する
- 悲嘆の共有が癒しや受容のプロセスを促進する
環境調整
- 安心できる生活環境を整え、悲嘆を抱えながらも穏やかに過ごせる場を提供する
健康的な生活習慣の促進
- 規則的な睡眠、バランスの取れた食事、適度な運動を通じて身体的な健康を支援する
薬物療法
- 悲嘆に伴ううつ病や不安が強い場合は、抗うつ薬や抗不安薬を使用(医師の指示の下で実施)
慢性悲嘆(NANDA-I領域9)の患者をケアする上で気をつけること
慢性悲嘆(NANDA-I領域9)の患者をケアする際には、以下の点に注意する必要があります。
- 悲嘆の感情を否定せず、患者の感情に寄り添う。
- 「そろそろ悲しむのをやめたら」などの無理解な言葉を避ける。
- 患者が感情を表現できるよう、傾聴の姿勢を示す。
- 必要に応じて、家族や友人を巻き込み、支援の輪を広げる。
- 長期間にわたる場合でも焦らず、患者のペースに合わせて支援を提供する。
慢性悲嘆(NANDA-I領域9)の看護計画を立案する上でのポイント
慢性悲嘆(NANDA-I領域9)の看護計画(観察計画、援助計画、行動計画)は、以下のポイントに注意をして立案すると良いでしょう。
観察計画(O-P)の立案ポイント
患者が抱える悲嘆の内容や程度を詳細に把握します。
表情や態度、日常生活の様子を観察し、悲嘆がどのように影響しているかを記録します。
また、悲嘆が心理的および身体的な健康に及ぼしている影響を評価します。
援助計画(T-P)の立案ポイント
患者が悲嘆を整理し、少しずつ生活に適応できるように支援します。
安心できる環境を整え、患者が自分のペースで感情を表現できるよう促します。
また、必要に応じて心理士やソーシャルワーカーと連携します。
教育計画(E-P)の立案ポイント
悲嘆のプロセスが正常であることを説明し、患者が安心感を持てるようにします。
孤立を防ぐため、サポートグループや地域資源の活用方法を案内します。
また、悲嘆がもたらす心理的影響について家族にも教育を行います。
慢性悲嘆(NANDA-I領域9)の看護計画の記載例・書き方
看護診断 | #1 慢性悲嘆 |
患者目標 | 長期目標:悲嘆を受け入れ、生活の質を回復できる。 短期目標:自分の感情を言語化し、少しずつ日常生活に戻る努力を始められる。 |
観察計画(O-P) | 患者が悲嘆をどのように表現しているか観察する。 日常生活への悲嘆の影響を確認する(例:食欲や睡眠の変化)。 社会的孤立や家族との関係における変化を観察する。 悲嘆に伴う身体的症状(例:頭痛、不眠)を記録する。 |
援助計画(T-P) | 患者が安心して感情を表現できるように傾聴する。 心理士やカウンセラーと連携し、必要な支援を提供する。 悲嘆を共有できるグループやサポート団体への参加を勧める。 患者が小さな目標を設定し、達成感を得られるようにサポートする。 |
教育計画(E-P) | 悲嘆が正常な反応であることを説明し、患者の感情を肯定する。 悲嘆が引き起こす身体的、心理的な影響について患者と家族に説明する。 地域のサポートリソースや利用可能なサービスを紹介する。 悲嘆を和らげるためのセルフケア方法(例:リラクゼーション、運動)を指導する。 |
看護計画作成におけるルールは、コチラの記事(【完全保存版】看護計画の作成ルールと記載例まとめ【NANDA- I】)を参考にしてください!
【完全保存版】看護計画の作成ルールと記載例まとめ【NANDA- I】
続きを見る
慢性悲嘆(NANDA-I領域9)の看護記録(SOAP)の記載例・書き方
看護診断 (看護問題) | 慢性悲嘆 |
S(主観的情報) | 「家族を失ったことを考えると、今でも胸が苦しくて、前に進めません。」 「何をしても楽しく感じられません。」 |
O(客観的情報) | 患者はうつむきがちで、涙を流すことが多い。 食事の摂取量が減少している。 社会的活動への参加がほとんど見られない。 |
A(評価) | 喪失に対する悲嘆が長期化しており、日常生活や心理的安定に深刻な影響を与えている状態。 |
P(計画) | 毎日、患者の感情表現に耳を傾け、悲嘆を受け入れる環境を提供する。 カウンセリングを提案し、心理的支援を強化する。 サポートグループへの参加を勧め、孤立感を軽減する。 睡眠や食事など、基本的な生活リズムの回復を支援する。 家族にも教育を行い、患者を支える方法を共有する。 |
看護記録(SOAP)作成におけるルールは、コチラの記事看護記録(【完全保存版】「SOAP」の書き方と記載例まとめ【NANDA-Iの看護診断対応)を参考にしてください!
【完全保存版】看護記録「SOAP」の書き方と記載例まとめ【NANDA-Iの看護診断対応】
続きを見る
NANDA-Iの看護診断に基づく看護記録(SOAP)&看護計画の記載例まとめ
当サイトでは、今回ご紹介した領域の他にも、NANDA-Iの看護診断に基づく看護記録(SOAP)&看護計画の記載例を多数まとめています。
ぜひ、日々の業務のご活用ください!
看護記録(SOAP)の記載例
看護計画の記載例
引用・参考文献
T. ヘザー・ハードマン 編,上鶴 重美 訳:NANDA-I看護診断 定義と分類 2020-2023.医学書院.