当サイトでは、看護学生や新人看護師のために、NANDA-Iの看護診断に基づく看護計画&看護記録の記載例・書き方を多数ご紹介しています。
今回は、NANDA-I領域3の看護診断「排尿障害」の患者の観察ポイントを解説してまいります。
排尿障害は、看護診断の中でも使用頻度が高く、しっかりと抑えておくべき診断の一つです。
記事の最後には、看護計画と看護記録(SOAP)の記載例を公開しており、すべてコピペ可です。
あくまでも一例であり、所属している病院や法人によって、書き方やルールは異なる場合も考えられますので、各自カスタマイズしてご活用ください。
排尿障害(NANDA-I領域3)とは
排尿障害とは、尿の排出に異常がある状態を指します。
頻尿、排尿困難、尿意切迫感、尿漏れ、尿閉などさまざまな症状が含まれます。
排尿障害は、泌尿器系、神経系、または全身的な健康状態の影響で発生し、患者の生活の質に大きな影響を与える可能性があります。
排尿障害(NANDA-I領域3)の原因
排尿障害(NANDA-I領域3)を引き起こす主な原因は以下の通りです。
泌尿器系の異常
- 前立腺肥大症(男性の場合)
- 尿路結石や腫瘍による尿路の閉塞
- 膀胱炎、尿道炎などの感染症
皮膚・粘膜の損傷
褥瘡、手術創、火傷、皮膚の乾燥やひび割れがあると、外部からの病原体の侵入リスクが高まります。
神経系の異常
- 脳卒中、脊髄損傷による神経因性膀胱
- 多発性硬化症、パーキンソン病などの神経疾患
- 糖尿病性神経障害
筋肉や構造の異常
- 骨盤底筋群の機能低下(例:出産後や加齢)
- 膀胱過活動症や尿失禁
薬剤やその他の要因
- 抗コリン薬や降圧薬の副作用
- 水分摂取の過不足
- 精神的ストレスや緊張
排尿障害(NANDA-I領域3)の評価方法
排尿障害(NANDA-I領域3)を評価する際には、患者の訴えを詳しく聴取し、原因を特定するための検査を行います。
症状の確認
- 排尿回数(昼間・夜間)、1回の排尿量、残尿感の有無
- 排尿時の痛み、尿の性状(色、臭い、血尿の有無)
- 尿漏れや尿意切迫感の頻度と状況
身体所見
- 腹部の触診や打診で膀胱の状態を確認(膀胱膨満)
- 会陰部や外陰部の状態を観察
検査
- 尿検査:感染や血尿の確認
- 残尿測定:超音波検査で排尿後の残尿量を評価
- 尿流測定:尿の流量と排尿パターンを測定
- 膀胱鏡検査:尿道や膀胱内部の観察
- 血液検査:腎機能や糖尿病の評価。
質問票やスケールの活用
- 国際前立腺症状スコア(IPSS):排尿困難の評価
- OABSS(Overactive Bladder Symptom Score):膀胱過活動症の評価
排尿障害(NANDA-I領域3)の治療方法
排尿障害(NANDA-I領域3)の治療は、原因や症状に応じて以下の方法を行います。
生活習慣の改善
- 適切な水分摂取(過剰または不足を防ぐ)
- カフェインやアルコールの摂取を控える
- 排尿日誌をつけて排尿パターンを把握する
薬物療法
- 前立腺肥大症:α遮断薬(尿道の緊張を緩和)
- 膀胱過活動症:抗コリン薬やβ3作動薬
- 尿路感染症:抗菌薬の使用
- 神経因性膀胱:排尿筋収縮薬や抗不整脈薬(場合により)
行動療法
- 骨盤底筋運動(Kegel体操)で筋力を強化
- 排尿訓練(定時排尿や排尿の我慢練習)
外科的治療
- 前立腺肥大や腫瘍の場合、手術(TURPや膀胱鏡下手術)
- 尿道狭窄症の治療(拡張術やステント留置)
器具や補助療法
- 導尿(間欠的自己導尿または留置カテーテル)
- ペッサリーや膀胱刺激装置の使用
排尿障害(NANDA-I領域3)の患者をケアする上で気をつけること
排尿障害(NANDA-I領域3)の患者をケアする際には、以下の点に注意する必要があります。
適切な排尿環境の提供
- トイレへのアクセスを確保し、安心して排尿できる環境を整える。
排尿パターンのモニタリング
- 排尿回数や残尿量を記録し、治療効果を評価する。
感染予防
- 尿路感染症のリスクを軽減するため、清潔ケアを徹底する。
患者の心理的ケア
- 排尿障害に伴う羞恥心や不安を軽減するため、プライバシーに配慮した対応を心がける。
排尿訓練の支援
- 訓練の進行状況を確認し、患者のペースに合わせた支援を行う。
排尿障害(NANDA-I領域3)の看護計画を立案する上でのポイント
排尿障害(NANDA-I領域3)の看護計画(観察計画、援助計画、行動計画)は、以下のポイントに注意をして立案すると良いでしょう。
観察計画(O-P)の立案ポイント
排尿パターン、尿量、残尿感、尿の性状を記録します。
また、感染兆候(発熱、痛み、尿臭の変化)を観察します。
援助計画(T-P)の立案ポイント
排尿しやすい環境を整え、患者の排尿習慣に合わせたケアを行います。
また、必要に応じて排尿訓練や導尿の支援を提供します。
教育計画(E-P)の立案ポイント
患者に対し、排尿障害の原因や治療方法を説明します。
また、日常生活での予防策やトイレ環境の改善方法について具体的に指導します。
排尿障害(NANDA-I領域3)の看護計画の記載例・書き方
看護診断 | #1 排尿障害 |
患者目標 | 長期目標:排尿機能が改善し、適切な排尿パターンが確立できる 短期目標:1週間以内に残尿感が軽減し、1回の排尿量が増加できる |
観察計画(O-P) | 尿量、排尿回数、排尿時間を記録する。 残尿量を測定し、尿路閉塞の有無を確認する。 尿の性状(色、臭い、混濁)の変化を観察する。 尿路感染症の兆候(発熱、排尿時痛)を確認する。 膀胱膨満感の有無を触診で確認する。 バイタルサイン(特に発熱や血圧変動)を定期的に測定する。 患者の訴え(例:尿意切迫感や頻尿)を聴取する。 腹部エコーや尿流測定結果を記録し、治療効果を評価する。 薬剤の効果と副作用を観察する。 水分摂取量を記録し、適切なバランスを確認する。 |
援助計画(T-P) | トイレへの誘導や環境整備を行い、排尿を促進する。 必要に応じて間欠的自己導尿を指導し、残尿を軽減する。 骨盤底筋運動(Kegel体操)の方法を指導する。 患者に排尿日誌をつけるよう提案し、記録の支援を行う。 カフェインやアルコールの摂取を制限するよう助言する。 水分摂取の適正量を指導し、脱水や過剰摂取を防ぐ。 感染予防のため、陰部の清潔ケアを徹底する。 トイレの利用を円滑にするため、移動時に介助を行う。 導尿や膀胱刺激装置の使用に伴うストレスを軽減するため、心理的支援を行う。 膀胱訓練を通じて、排尿間隔を徐々に延長できるよう支援する。 |
教育計画(E-P) | 排尿障害の原因と治療方法を説明し、患者の理解を促す。 トイレ環境の改善方法(例:手すりの設置、便座の高さ調整)を指導する。 骨盤底筋運動の重要性と正しい方法を教える。 感染予防のための清潔保持方法を指導する。 水分摂取のタイミングと適切な量を説明する。 排尿日誌の記録方法を指導し、患者自身でモニタリングできるよう支援する。 薬剤の正しい服用方法と副作用について説明する。 尿路感染症の初期症状や対応方法を説明する。 精神的ストレスが排尿障害に与える影響について理解を深めるよう助言する。 家族や介護者に対し、適切なサポート方法を指導する。 |
看護計画作成におけるルールは、コチラの記事(【完全保存版】看護計画の作成ルールと記載例まとめ【NANDA- I】)を参考にしてください!
【完全保存版】看護計画の作成ルールと記載例まとめ【NANDA- I】
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排尿障害(NANDA-I領域3)の看護記録(SOAP)の記載例・書き方
看護診断 (看護問題) | 排尿障害 |
S(主観的情報) | 「トイレに行っても、スッキリした感じがありません。」 「最近、尿が出にくいです。」 |
O(客観的情報) | 尿量:1回あたり50~100mL(残尿感あり)。 超音波検査で残尿量150mLを確認。 排尿回数:1日10回(頻尿)。 尿混濁、軽度の臭い変化あり。 |
A(評価) | 排尿困難と残尿感があり、感染リスクが高い状態。適切な排尿補助と感染予防が必要。 |
P(計画) | トイレの環境を整備し、安心して排尿できるよう支援する。 間欠的自己導尿を指導し、残尿量を軽減する。 感染予防のため、陰部の清潔ケアを徹底する。 尿検査を実施し、感染兆候を確認する。 骨盤底筋運動を指導し、患者が自宅で継続できるよう支援する。 水分摂取量を適切に調整し、尿量を増加させる。 薬剤の副作用や効果を観察し、必要に応じて医師に報告する。 排尿日誌をつけ、患者の排尿パターンを記録するよう指導する。 尿の性状(色、臭い、混濁)を観察し、変化があれば報告する。 排尿障害に伴う心理的な不安を軽減するため、患者に寄り添ったケアを行う。 |
看護記録(SOAP)作成におけるルールは、コチラの記事看護記録(【完全保存版】「SOAP」の書き方と記載例まとめ【NANDA-Iの看護診断対応)を参考にしてください!
【完全保存版】看護記録「SOAP」の書き方と記載例まとめ【NANDA-Iの看護診断対応】
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NANDA-Iの看護診断に基づく看護記録(SOAP)&看護計画の記載例まとめ
当サイトでは、今回ご紹介した領域の他にも、NANDA-Iの看護診断に基づく看護記録(SOAP)&看護計画の記載例を多数まとめています。
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看護記録(SOAP)の記載例
看護計画の記載例
引用・参考文献
T. ヘザー・ハードマン 編,上鶴 重美 訳:NANDA-I看護診断 定義と分類 2020-2023.医学書院.