当サイトでは、看護学生や新人看護師のために、NANDA-Iの看護診断に基づく看護計画&看護記録の記載例・書き方を多数ご紹介しています。
今回は、NANDA-I領域3の看護診断「下痢」の患者の観察ポイントを解説してまいります。
下痢は、看護診断の中でも使用頻度が高く、しっかりと抑えておくべき診断の一つです。
記事の最後には、看護計画と看護記録(SOAP)の記載例を公開しており、すべてコピペ可です。
あくまでも一例であり、所属している病院や法人によって、書き方やルールは異なる場合も考えられますので、各自カスタマイズしてご活用ください。
下痢(NANDA-I領域3)とは
下痢とは、1日に3回以上の軟便や水様便の排出を伴う状態を指します。
下痢は腸管内の水分吸収の低下または分泌の増加によって引き起こされ、急性または慢性の形態をとります。
急性下痢は一般的に2週間以内に治癒しますが、慢性下痢は4週間以上持続し、基礎疾患が疑われる場合があります。
下痢(NANDA-I領域3)の原因
下痢(NANDA-I領域3)を引き起こす主な原因は以下の通りです。
感染性
- ウイルス性(例:ノロウイルス、ロタウイルス)
- 細菌性(例:サルモネラ菌、赤痢菌)
- 寄生虫(例:ジアルジア、アメーバ)
食事・薬剤関連
- 食品不耐性(例:乳糖不耐症、フルクトース不耐症)
- 食中毒(例:腐敗食品、未調理食品の摂取)
- 薬剤性(例:抗生物質、下剤、化学療法)
消化器疾患
- 炎症性腸疾患(例:クローン病、潰瘍性大腸炎)
- 過敏性腸症候群(IBS)
- 吸収不良(例:セリアック病)
その他の要因
- 精神的ストレスや不安
- 内分泌異常(例:甲状腺機能亢進症)
- 血管疾患(例:虚血性腸炎)
下痢(NANDA-I領域3)の評価方法
下痢を評価する際には、患者の訴えや症状を詳しく聴取し、原因や重症度を特定します。
病歴の聴取
- 下痢の頻度、期間、便の性状(例:水様便、血便、膿)
- 発熱、腹痛、悪心・嘔吐の有無
- 食事歴や旅行歴、接触歴(感染の可能性)
- 使用している薬剤やサプリメントの確認
身体所見
- 脱水症状(例:口渇、皮膚の弾力低下、尿量減少)
- 腹部の膨満感、圧痛、腸雑音
- 全身の状態(例:体重減少、意識レベル)
検査
- 便検査:病原体の検出(細菌、ウイルス、寄生虫)
- 血液検査:白血球数、CRP、電解質異常を評価
- 画像診断:腹部X線やCTスキャン(腸閉塞や炎症の確認)
重症度の判定
- 脱水症の有無や電解質異常を基に重症度を判定します。
下痢(NANDA-I領域3)の治療方法
下痢の治療は、原因に応じた対症療法と根本治療を組み合わせて行います。
水分補給と電解質補正
- 経口補水液(ORS)を用いて、脱水と電解質異常を改善します。
- 重度の場合は、点滴による輸液を行います。
食事療法
- 脂肪分や刺激物を避け、消化の良い食品(例:おかゆ、バナナ)を摂取する。
- 乳糖不耐症が疑われる場合は乳製品を制限。
感染対策
- 感染性下痢の場合は、患者の隔離や接触予防を徹底
- 手洗いや消毒を徹底し、二次感染を防止
薬物療法
- 止瀉薬:ロペラミド(腸管運動を抑制)
- 抗生物質:細菌性下痢が確認された場合に使用
- 吸着剤:腸内毒素を吸着する
- プロバイオティクス:腸内環境を整える
基礎疾患の治療
- 炎症性腸疾患や甲状腺機能亢進症などが原因の場合は、専門的治療を行う。
下痢(NANDA-I領域3)の患者をケアする上で気をつけること
下痢(NANDA-I領域3)の患者をケアする際には、以下の点に注意する必要があります。
脱水症の予防と対応
水分補給を促し、患者の体液バランスを維持します。
重度の場合は速やかに医師へ報告し、輸液を検討します。
清潔管理
便失禁がある場合は、皮膚の清潔を保ち、皮膚トラブルを予防します。
排便パターンの記録
下痢の頻度や性状を記録し、治療効果を評価します。
患者の心理的サポート
下痢に伴う不安や羞恥心を軽減するため、患者に寄り添った対応を心がけます。
環境整備
トイレへのアクセスを容易にし、患者がストレスなく排便できる環境を整えます。
下痢(NANDA-I領域3)の看護計画を立案する上でのポイント
下痢(NANDA-I領域3)の看護計画(観察計画、援助計画、行動計画)は、以下のポイントに注意をして立案すると良いでしょう。
観察計画(O-P)の立案ポイント
患者の脱水症状や電解質異常の有無を観察します。
また、便の頻度や性状、随伴症状(腹痛、発熱)の変化を記録します。
援助計画(T-P)の立案ポイント
水分補給や食事指導を通じて、患者の体液バランスを維持します。
また、清潔ケアを実施し、皮膚のトラブルを予防します。
教育計画(E-P)の立案ポイント
下痢の原因や治療法を患者と家族にわかりやすく説明します。
特に、感染性の場合は、感染拡大を防ぐための衛生管理を指導します。
下痢(NANDA-I領域3)の看護計画の記載例・書き方
看護診断 | #1 下痢 |
患者目標 | 長期目標:下痢が改善し、正常な排便パターンに回復できる。 短期目標:1週間以内に脱水症状が改善し、便の頻度が通常に戻る。 |
観察計画(O-P) | 排便の頻度、性状、量を記録する。 脱水症状(皮膚の弾力低下、口渇、尿量減少)を観察する。 バイタルサイン(血圧、脈拍、体温)を定期的に測定する。 腹部の触診を行い、圧痛や腸雑音を確認する。 便の培養検査や血液検査の結果を確認する。 水分摂取量と尿量を記録し、体液バランスを評価する。 下痢による体重減少の有無を記録する。 食事内容や食事後の症状を記録する。 下痢に伴う不安やストレスの程度を聴取する。 便中に血液や膿が混じっていないか確認する。 |
援助計画(T-P) | 経口補水液(ORS)を提供し、水分補給を促す。 脱水が重度の場合は、医師に報告して輸液を依頼する。 消化に良い食品(例:おかゆ、バナナ)を提案する。 下痢がひどい場合は、トイレへのアクセスを容易にする。 皮膚の清潔を保ち、湿疹やかぶれを予防するケアを実施する。 必要に応じて吸水性の高いリネンやパッドを使用する。 止瀉薬や抗生物質の適切な使用を医師と協議する。 腹部マッサージを行い、腸の動きを正常化する。 便の異常が改善するまで、刺激物の摂取を控えるよう助言する。 患者の不安を軽減するため、症状の改善プロセスを丁寧に説明する。 |
教育計画(E-P) | 下痢時の適切な水分補給方法を説明する。 消化に良い食品や食事のタイミングを指導する。 感染性下痢の場合は、手洗いや調理器具の消毒方法を指導する。 便の異常が続く場合は、速やかに医師に相談するよう助言する。 便の性状を観察し、記録する方法を教える。 下痢を引き起こす可能性のある食品や飲料を説明する。 適切な薬剤使用と副作用について指導する。 感染を広げないための家庭内衛生対策を説明する。 精神的ストレスが腸に与える影響を説明し、リラクゼーション方法を提案する。 長引く下痢が基礎疾患の兆候である場合について理解を深めるよう説明する。 |
看護計画作成におけるルールは、コチラの記事(【完全保存版】看護計画の作成ルールと記載例まとめ【NANDA- I】)を参考にしてください!
【完全保存版】看護計画の作成ルールと記載例まとめ【NANDA- I】
続きを見る
下痢(NANDA-I領域3)の看護記録(SOAP)の記載例・書き方
看護診断 (看護問題) | 下痢 |
S(主観的情報) | 「何回もトイレに行って、疲れてしまいます。」 「便が水っぽくて止まりません。」 |
O(客観的情報) | 排便回数:1日7回、水様便。 脱水症状(口渇、皮膚の弾力低下)を認める。 体重が3日で2kg減少。 バイタルサイン:体温37.8℃、脈拍100回/分。 |
A(評価) | 急性下痢により脱水症状が進行しており、速やかな水分補給と原因の特定が必要。 |
P(計画) | 経口補水液を提供し、患者の脱水を改善する。 水様便が続く場合は、輸液の必要性を医師に報告する。 消化に良い食事を提案し、腸への負担を軽減する。 感染性下痢を疑い、便培養検査を依頼する。 バイタルサインを1日3回測定し、状態の変化を観察する。 便の性状と頻度を記録し、改善状況を評価する。 腹部を触診し、圧痛や腸雑音を確認する。 手洗いやトイレ後の清潔を指導し、感染拡大を防ぐ。 患者の不安を軽減するため、治療計画を丁寧に説明する。 症状の改善が見られるまで、活動を制限し、十分な休息を取るよう助言する。 |
看護記録(SOAP)作成におけるルールは、コチラの記事看護記録(【完全保存版】「SOAP」の書き方と記載例まとめ【NANDA-Iの看護診断対応)を参考にしてください!
【完全保存版】看護記録「SOAP」の書き方と記載例まとめ【NANDA-Iの看護診断対応】
続きを見る
NANDA-Iの看護診断に基づく看護記録(SOAP)&看護計画の記載例まとめ
当サイトでは、今回ご紹介した領域の他にも、NANDA-Iの看護診断に基づく看護記録(SOAP)&看護計画の記載例を多数まとめています。
ぜひ、日々の業務のご活用ください!
看護記録(SOAP)の記載例
看護計画の記載例
引用・参考文献
T. ヘザー・ハードマン 編,上鶴 重美 訳:NANDA-I看護診断 定義と分類 2020-2023.医学書院.