当サイトでは、看護学生や新人看護師のために、NANDA-Iの看護診断に基づく看護計画&看護記録の記載例・書き方を多数ご紹介しています。
今回は、NANDA-I領域3の看護診断「ガス交換障害」の患者の観察ポイントを解説してまいります。
ガス交換障害は、看護診断の中でも使用頻度が高く、しっかりと抑えておくべき診断の一つです。
記事の最後には、看護計画と看護記録(SOAP)の記載例を公開しており、すべてコピペ可です。
あくまでも一例であり、所属している病院や法人によって、書き方やルールは異なる場合も考えられますので、各自カスタマイズしてご活用ください。
ガス交換障害(NANDA-I領域3)とは
ガス交換障害とは、肺胞と毛細血管間での酸素と二酸化炭素の交換が正常に行われない状態を指します。
この障害により、組織への酸素供給が不十分になり、体内の二酸化炭素の排出が滞る可能性があります。
ガス交換障害は、呼吸器系疾患や循環器系の問題、外傷などさまざまな要因で引き起こされます。
ガス交換障害(NANDA-I領域3)の原因
ガス交換障害(NANDA-I領域3)を引き起こす主な原因は以下の通りです。
呼吸器系の問題
- 慢性閉塞性肺疾患(COPD)
- 肺炎
- 気胸や胸水
- 肺塞栓症
ガス交換面積の減少
- 肺胞壁の破壊(例:肺気腫)
- 肺線維症による肺胞の硬化
酸素拡散能力の低下
- 肺胞毛細血管膜の肥厚(例:間質性肺炎)
循環系の問題
- 心不全による肺うっ血
- 肺高血圧症
その他の要因
- 外傷(例:肋骨骨折による換気障害)
- 高地での低酸素環境
- 麻酔薬や鎮静薬の影響による呼吸抑制
ガス交換障害(NANDA-I領域3)の評価方法
ガス交換障害(NANDA-I領域3)を評価する際には、以下の方法が用いられます。
身体的評価
- チアノーゼの有無(口唇や末端部の青紫色変化)
- 呼吸困難や努力呼吸の有無
- 呼吸数や呼吸パターンの異常(速い、浅い、深いなど)
- 起座呼吸の有無(仰臥位で呼吸困難が悪化する)
検査
- 動脈血ガス分析(ABG):PaO₂(動脈血酸素分圧)、PaCO₂(二酸化炭素分圧)、pH、HCO₃⁻などを測定し、酸素化や酸塩基平衡を評価します。
- パルスオキシメーター:経皮的動脈血酸素飽和度(SpO₂)を測定します。
- 胸部X線、CTスキャン:肺炎や胸水、肺気腫などの病変を確認します。
患者の訴え
- 息苦しさ、胸の痛み、疲労感の有無を聴取します。
血液検査
- 貧血や感染症の有無を確認するための検査(例:ヘモグロビン、白血球数)
ガス交換障害(NANDA-I領域3)の治療方法
ガス交換障害(NANDA-I領域3)の治療は、原因や症状に応じて以下の方法を行います。
酸素療法
- 酸素マスクや鼻カニューレで酸素を投与し、低酸素血症を改善します。
- 重度の場合は人工呼吸器管理が必要となる場合があります。
薬物療法
- 気管支拡張薬:喘息やCOPDの場合に使用
- 抗炎症薬:ステロイドを使用し、炎症を軽減
- 抗生物質:肺炎などの感染症が原因の場合に投与
- 利尿薬:心不全による肺うっ血の場合に使用
体位管理
- 起座位をとらせ、呼吸を楽にします。
- 肺の換気を改善するために体位ドレナージを実施する場合もあります。
根本的な治療
- 胸水や気胸の場合は、胸腔ドレナージを行います。
- 肺塞栓症の場合は抗凝固療法を行います。
リハビリテーション
- 呼吸リハビリテーションを行い、患者の肺機能を維持・向上させます。
ガス交換障害(NANDA-I領域3)の患者をケアする上で気をつけること
ガス交換障害(NANDA-I領域3)の患者をケアする際には、以下の点に注意する必要があります。
安全な酸素療法の実施
酸素療法を行う際には、酸素濃度や流量を適切に設定し、副作用(例:酸素中毒)を防ぎます。
患者の体位管理
起座位やファウラー位を活用し、呼吸を楽にする体位を保持します。
早期の異常発見
呼吸状態や意識レベル、バイタルサインの変化を注意深く観察します。
特にSpO₂の低下や呼吸困難の増悪を見逃さないことが重要です。
呼吸筋のサポート
努力呼吸が強い場合、患者のエネルギー消耗を防ぐために適切な介入を行います。
患者の心理的サポート
息苦しさに対する不安を軽減するため、安心感を与えるコミュニケーションを心がけます。
ガス交換障害(NANDA-I領域3)の看護計画を立案する上でのポイント
ガス交換障害(NANDA-I領域3)の看護計画(観察計画、援助計画、行動計画)は、以下のポイントに注意をして立案すると良いでしょう。
観察計画(O-P)の立案ポイント
患者の呼吸状態やSpO₂、動脈血ガス値、意識レベルを観察します。
また、呼吸音(ラ音や喘鳴)を聴取し、肺の状態を把握します。
援助計画(T-P)の立案ポイント
酸素療法や体位管理、呼吸練習を行い、患者の酸素化をサポートします。
患者の体力を消耗させないよう、適切な介助を提供します。
教育計画(E-P)の立案ポイント
患者とその家族に、酸素療法の目的や正しい使用方法を説明します。
また、呼吸を助ける日常的な運動や環境調整について指導します。
ガス交換障害(NANDA-I領域3)の看護計画の記載例・書き方
看護診断 | #1 ガス交換障害 |
患者目標 | 長期目標:SpO₂を安定的に95%以上に維持し、呼吸困難が改善できる 短期目標:1日以内に呼吸状態が安定し、酸素療法の効果が得られる |
観察計画(O-P) | SpO₂を連続的に測定し、変化を記録する。 呼吸数や呼吸パターンの変化を観察する。 動脈血ガス分析の結果をモニタリングする。 バイタルサイン(血圧、脈拍、体温)を定期的に測定する。 呼吸音を聴取し、ラ音や喘鳴を確認する。 意識レベルの変化を観察する。 チアノーゼの有無を確認する(口唇や末端部)。 酸素療法の効果(呼吸困難の軽減)を評価する。 疲労感や胸痛の有無を聴取する。 胸部X線やCTスキャンの結果を確認し、肺の状態を把握する。 |
援助計画(T-P) | 酸素マスクまたは鼻カニューレを適切に装着し、酸素療法を実施する。 起座位を保持し、呼吸を楽にする体位を提供する。 患者に深呼吸や咳出しを促し、痰の排出を助ける。 必要に応じて吸引を行い、気道を確保する。 喀痰の性状や量を記録し、適切なケアを行う。 呼吸を補助するためのリラクゼーション法(例:腹式呼吸)を指導する。 呼吸筋の疲労を軽減するため、適度な安静を確保する。 痰の排出を助けるため、十分な水分摂取を促進する。 必要に応じて薬物療法(気管支拡張薬、利尿薬など)を補助する。 呼吸リハビリテーションを導入し、肺機能を維持する。 |
教育計画(E-P) | 酸素療法の目的と注意点を患者と家族に説明する。 呼吸を楽にするための体位の取り方を指導する。 深呼吸や咳出しの重要性を説明し、実践方法を指導する。 環境調整(例:室内の換気、ホコリの除去)の重要性を説明する。 喀痰の排出を助けるための水分摂取を推奨する。 禁煙や空気の質を改善する生活習慣を指導する。 早期受診が必要な症状(例:呼吸困難の増悪、発熱)を説明する。 適切な服薬管理について説明する。 呼吸困難時に落ち着くための対処法を指導する。 日常生活での活動制限とその範囲を話し合い、安全に過ごせる環境を整える。 |
看護計画作成におけるルールは、コチラの記事(【完全保存版】看護計画の作成ルールと記載例まとめ【NANDA- I】)を参考にしてください!
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ガス交換障害(NANDA-I領域3)の看護記録(SOAP)の記載例・書き方
看護診断 (看護問題) | ガス交換障害 |
S(主観的情報) | 「息苦しい感じがする。」 「胸が圧迫されているように感じる。」 |
O(客観的情報) | SpO₂:88%(酸素投与なし)。 呼吸数:28回/分。 呼吸音:両側にラ音あり。 口唇にチアノーゼを認める。 起座位で呼吸困難が軽減する様子を観察。 |
A(評価) | ガス交換障害があり、酸素療法と体位管理が必要な状態。 |
P(計画) | 酸素投与(鼻カニューレ、3L/分)を開始する。 起座位を保持し、呼吸を楽にする体位を提供する。 SpO₂を1時間ごとに測定し、効果を評価する。 深呼吸と咳出しを促し、気道のクリアランスを確保する。 吸引を必要に応じて実施し、気道を清潔に保つ。 喀痰の性状と量を観察し、記録する。 動脈血ガス分析を実施し、酸素化と二酸化炭素の状態を確認する。 患者と家族に酸素療法の目的と注意点を説明する。 呼吸筋疲労を防ぐため、十分な休息を確保する。 呼吸状態が悪化した場合は医師に速やかに報告し、対応を検討する。 |
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【完全保存版】看護記録「SOAP」の書き方と記載例まとめ【NANDA-Iの看護診断対応】
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NANDA-Iの看護診断に基づく看護記録(SOAP)&看護計画の記載例まとめ
当サイトでは、今回ご紹介した領域の他にも、NANDA-Iの看護診断に基づく看護記録(SOAP)&看護計画の記載例を多数まとめています。
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看護記録(SOAP)の記載例
看護計画の記載例
引用・参考文献
T. ヘザー・ハードマン 編,上鶴 重美 訳:NANDA-I看護診断 定義と分類 2020-2023.医学書院.