当サイトでは、看護学生や新人看護師のために、NANDA-Iの看護診断に基づく看護計画&看護記録の記載例・書き方を多数ご紹介しています。
今回は、NANDA-I領域5の看護診断「言語的コミュニケーションの障害」の患者の観察ポイントを解説してまいります。
言語的コミュニケーションの障害は、看護診断の中でも使用頻度が高く、しっかりと抑えておくべき診断の一つです。
記事の最後には、看護計画と看護記録(SOAP)の記載例を公開しており、すべてコピペ可です。
あくまでも一例であり、所属している病院や法人によって、書き方やルールは異なる場合も考えられますので、各自カスタマイズしてご活用ください。
言語的コミュニケーションの障害(NANDA-I領域5)とは
言語的コミュニケーションの障害とは、言葉を使った意思疎通が困難になる状態を指します。
この障害には、話す能力、聞き取る能力、読む能力、書く能力のいずれか、または複数が影響を受ける場合があります。
脳の損傷や発達上の問題、心理的要因、老化などが原因となることがあり、日常生活や社会活動への影響が大きいため、適切な支援が必要です。
言語的コミュニケーションの障害(NANDA-I領域5)の原因
言語的コミュニケーションの障害(NANDA-I領域5)を引き起こす主な原因は以下の通りです。
神経学的な要因
- 脳血管障害(例:脳梗塞、脳出血)
- 外傷性脳損傷(例:事故や転倒による頭部外傷)
- 神経変性疾患(例:アルツハイマー病、パーキンソン病)
発達上の要因
- 発達障害(例:自閉症スペクトラム障害、学習障害)
- 言語遅滞(例:子どもの言語発達の遅れ)
心理的要因
- トラウマやストレスによる心因性の障害
- 不安障害やうつ病による話しづらさ
加齢
- 高齢による認知機能や言語能力の低下(例:老年期認知症)
その他の要因
- 聴覚障害による言語発達の遅れ
- 器質的問題(例:声帯麻痺、口腔構造の異常)
言語的コミュニケーションの障害(NANDA-I領域5)の評価方法
言語的コミュニケーションの障害(NANDA-I領域5)を評価する際には、患者の能力や背景に応じた観察と検査を行います。
病歴の聴取
- 症状の始まりや進行状況を確認
- 過去の脳血管障害や外傷の有無を把握
言語検査
- 標準失語症検査:言語表現や理解力の評価
- 構音検査:正確に発音できるかを評価
- 聴覚理解検査:聞き取った言葉の理解力を評価
観察
- 言葉を話す、聞く、読む、書く能力を個別に評価
- 話し方の流暢さ、語彙の適切さ、文法の正確さを確認
他の検査
- 脳画像検査:脳の損傷部位を確認(MRI、CT)
- 聴力検査:聴覚の障害が言語に影響を与えているか確認
日常生活の観察
- コミュニケーションの場面(例:家族や医療者との会話)を観察し、困難な状況を特定。
言語的コミュニケーションの障害(NANDA-I領域5)の治療方法
言語的コミュニケーションの障害(NANDA-I領域5)の治療は、原因や症状に応じて以下の方法を行います。
リハビリテーション
言語療法士(ST)による個別指導。
- 発語練習:構音や発音の練習
- 語彙や文法の練習
- 書字や読字の指導
補助具の利用
- コミュニケーションボードやタブレット端末を活用
- 音声生成装置(AAC:補助代替コミュニケーション)を使用
心理的支援
- トラウマやストレスによる場合は心理療法を提供
- 不安やうつ症状がある場合は、心理的なケアを併用
薬物療法
- 原因疾患(例:認知症、パーキンソン病)に応じた薬物治療
環境調整
- 静かな環境でコミュニケーションを行う
- 文字や絵を用いて伝える方法を工夫
言語的コミュニケーションの障害(NANDA-I領域5)の患者をケアする上で気をつけること
言語的コミュニケーションの障害(NANDA-I領域5)の患者をケアする際には、以下の点に注意する必要があります。
患者の尊厳を尊重する
- 言葉が出ないことに対する焦りや不安を軽減する対応を行う
わかりやすい言葉で話す
- 短く簡潔な表現を使い、ゆっくりと話す
非言語的コミュニケーションの活用
- 表情やジェスチャーを活用して意思疎通を図る
支援の段階を調整する
- 患者の進歩に合わせて支援内容を変更し、達成感を得られるよう工夫する
家族や介護者の協力を得る
- 日常生活でのコミュニケーション支援方法を家族に指導する
言語的コミュニケーションの障害(NANDA-I領域5)の看護計画を立案する上でのポイント
言語的コミュニケーションの障害(NANDA-I領域5)の看護計画(観察計画、援助計画、行動計画)は、以下のポイントに注意をして立案すると良いでしょう。
観察計画(O-P)の立案ポイント
言語的表現や理解の程度を定期的に評価し、変化を記録します。
また、患者の心理的反応やストレスの有無も観察します。
援助計画(T-P)の立案ポイント
発語や言語理解の練習を支援し、非言語的手段を活用して患者が伝えたいことを表現できるようにします。
必要に応じて補助具を提供します。
教育計画(E-P)の立案ポイント
患者と家族に言語障害の原因やリハビリ方法を説明し、効果的なコミュニケーション方法を指導します。
患者の進歩を支援し、心理的負担を軽減します。
言語的コミュニケーションの障害(NANDA-I領域5)の看護計画の記載例・書き方
看護診断 | #1 言語的コミュニケーションの障害 |
患者目標 | 長期目標:言語的または非言語的手段で意思を伝えられる 短期目標:1週間以内に簡単な言葉やジェスチャーを用いて基本的な意思を表現できる |
観察計画(O-P) | 発語能力(言葉の数、発音の明瞭さ)を観察する。 言語理解能力を評価し、指示への反応を確認する。 非言語的コミュニケーション(表情、ジェスチャー)の使用状況を記録する。 患者のストレスや不安の程度を観察する。 家族とのコミュニケーションの様子を確認する。 |
援助計画(T-P) | 患者が話しやすい環境(静かで落ち着いた場所)を提供する。 言語療法士と連携し、発語や言語理解のリハビリを支援する。 簡単な単語やジェスチャーを用いた意思伝達を練習する。 絵カードやコミュニケーションボードを使用して意思疎通を図る。 患者が話す際にゆっくりと待ち、焦らせない対応を行う。 家族と患者が互いに理解しやすいコミュニケーション方法を模索する。 患者の言葉を繰り返し確認し、正確な意思疎通を図る。 言語的表現が難しい場合は、筆談やジェスチャーを使用する。 患者が成功体験を得られるよう、適切な目標を設定する。 患者のストレス軽減のため、リラクゼーション法を提案する。 |
教育計画(E-P) | 患者と家族に言語的コミュニケーション障害の原因と治療方針を説明する。 補助具(絵カード、タブレット端末)の使用方法を指導する。 非言語的コミュニケーションの活用法を家族に教える。 リハビリテーションの重要性と継続する意義を説明する。 患者の進歩を支援するための励まし方を家族に指導する。 患者が話しやすい環境作りの方法を説明する。 言語的コミュニケーション障害がある患者との接し方を家族に指導する。 患者の意欲を高めるため、適切な目標設定を行う方法を教える。 言語療法士や医療チームとの連携の重要性を家族に説明する。 家族が不安を感じた場合、医療者へ相談するよう勧める。 |
看護計画作成におけるルールは、コチラの記事(【完全保存版】看護計画の作成ルールと記載例まとめ【NANDA- I】)を参考にしてください!
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言語的コミュニケーションの障害(NANDA-I領域5)の看護記録(SOAP)の記載例・書き方
看護診断 (看護問題) | 言語的コミュニケーションの障害 |
S(主観的情報) | 「言葉が出なくて、伝えるのが難しいです。」 |
O(客観的情報) | 簡単な言葉(「はい」「いいえ」など)のみ話す。 ジェスチャーで意思を伝えようとするが、時々誤解が生じる。 ストレスサインとしてため息を頻繁に見せる。 |
A(評価) | 言語的コミュニケーションが困難な状態。非言語的手段を強化し、患者の意思伝達を支援する必要がある。 |
P(計画) | コミュニケーションボードを用いて簡単な意思伝達を練習する。 リハビリテーションの際、患者が落ち着ける環境を整える。 家族と連携し、非言語的手段(ジェスチャー、表情)を活用した意思疎通方法を模索する。 発語練習の中で簡単な単語を使用し、成功体験を提供する。 ストレス軽減のため、患者のペースに合わせた会話を心がける。 必要に応じて絵カードを使用し、意思疎通を補助する。 毎日言語能力を評価し、改善の度合いに応じて計画を見直す。 病室の環境を調整し、静かな場所でコミュニケーションを行う。 患者が話す時間を十分に設け、焦らせないよう対応する。 言語療法士と連携し、具体的なリハビリ目標を設定する。 |
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【完全保存版】看護記録「SOAP」の書き方と記載例まとめ【NANDA-Iの看護診断対応】
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NANDA-Iの看護診断に基づく看護記録(SOAP)&看護計画の記載例まとめ
当サイトでは、今回ご紹介した領域の他にも、NANDA-Iの看護診断に基づく看護記録(SOAP)&看護計画の記載例を多数まとめています。
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看護記録(SOAP)の記載例
看護計画の記載例
引用・参考文献
T. ヘザー・ハードマン 編,上鶴 重美 訳:NANDA-I看護診断 定義と分類 2020-2023.医学書院.