看護計画は、患者さん一人ひとりに合わせた質の高い看護ケアを提供するための基礎となる書類です。
この記事では、看護計画作成時のルールを中心にご紹介しています。
また、最後にはNANDA-Iに基づく記載例まで紹介しているので、明日からすぐに活用することができます。
この記事でわかること
・看護計画作成時のルール
・看護計画の良い例と悪い例
・NANDA-Iに基づいた看護計画の記載例
特に学生や新人看護師は、看護計画を作成するために残業をしたり睡眠時間を削ってしまうことも少なくありません。
この記事があなたの業務負担軽減につながり、そして楽しみながら看護ができる一助になれば幸いです。
看護計画とは
看護計画とは、患者さんが抱える様々な問題を解決するために、個別の看護目標を設定し、その目標を達成するために策定するプランを指します。
看護計画には患者さんへの介入方法や評価日が記載されており、看護目標の達成度を定期的に検討し、必要に応じて計画内容を修正することが重要となります。
看護計画の構成要素と各ルール
看護計画は、基本的に「看護診断」「看護目標」「観察計画(O-P)」「援助計画(C-P)」「教育計画(E-P)」で構成されます。
- 看護計画の構成要素
- ・看護診断
・看護目標
・観察計画(O-P)
・援助計画(C-P)
・教育計画(E-P)
それぞれには作成におけるルールがあるので、しっかりと抑えておきましょう。
看護診断(看護問題)の書き方・ルール
看護診断の特定は、看護計画を立てる上での最初のステップです。
看護診断は看護問題とも呼ばれ、文字通り患者さんにとって問題となっている点を記載します。
「この患者さんはどのようなことが問題になっているんだろう?」という、解決すべき問題を明確化するという目的もあります。
診察をすると医師が診断名をつけると思いますが、それの看護師バージョンと捉えていただくと分かりやすいかもしれません。
看護診断の書き方は病院や学校の方針によって異なることもありますが、一般的にはNANDA-Iに基づく看護診断名を使用します。
- NANDA-Iとは
- NANDA-Iとは「the North American Nursing Diagnosis Association international」の略で、北米看護診断協会が提唱する看護診断。NANDAの看護診断は13領域から構成される。臨床では「ナンダ」「ナンダアイ」と呼ばれることが多い。
看護診断にNANDA-Iが用いられている大きな理由は、表現の誤差をなくすことです。
例えば、誤嚥しやすい患者さんがいたとします。
この状態を表現するとき、看護師Aさんは「誤嚥性肺炎の危険性が高い」、看護師Bさんは「むせがあるので誤嚥に留意する」といったように、人それぞれで表現方法が異なってしまうことが考えられます。
同じ問題なのに異なった解釈を与えてしまうのは、チームアプローチをする看護師として望ましいものではありません。
その点、NANDA-Iを用いれば「嚥下障害」という診断名で統一をすることができます。
問題点が複数ある場合は、「#(ナンバー)」を用いて優先順位をつけて記載します。
- 看護診断の記載例
- #1 活動耐制低下
#2 セルフケア不足
患者目標の書き方・ルール
患者目標は、看護介入によって達成されることが期待される具体的な結果を指します。
「こういうことができるようになって欲しい」という部分を、看護の目線から記載すると良いでしょう。
患者目標を立てる上で、気をつけるべきルールは以下の通りです。
短期目標と長期目標の両方を立てる
患者目標は、短期目標と長期目標の両方を立てることが望ましいとされています。
なぜなら、短期目標という途中ステップを介することによって段階を明確化することができ、長期目標までの道のりが分かりやすくなります。
そのため、短期目標と長期目標はある程度つながりのある目標が望ましいといえるでしょう。
短期目標:車イスに15分座ることができる
長期目標:車イスに座って食事が自力摂取できる
患者さん自身の目標であることを意識する
患者目標は、あくまでも患者さんの目標であり、看護師の目標ではありません。
そのため、患者さんの希望を取り入れることはもちろん、患者さんが主体・主語となる表現をしましょう。
車イスに15分座ることができる(患者目線)
車イスに15分座らせることができる(看護師目線)
迷った場合は、患者目標の最初に「患者さんが」という言葉をつけて、不自然になっていないか確認するようにしましょう。
数値を用いるなど、具体的な目標設定をする
当たり前ですが、患者目標は達成するために設定します。
そのため、誰が見ても達成したことが分かるような目標を設定する必要があります。
その点、数値を用いて回数や量などを記載するのは効果的です。
決して、「できるだけ」など曖昧な表現は用いないようにしましょう。
車イスに15分座ることができる(達成がわかりやすい)
できるだけ車イスに座ることができる(できるだけってどのくらい??)
計画内容の書き方・ルール
計画内容は、看護診断に基づいて立てられた患者目標を達成するための具体的な介入計画です。
観察計画(O-P)、援助計画(T-P)、教育計画(E-P)の3つの視点から計画を立てます。
観察計画(O-P)
観察計画(O-P)では、看護師の目・耳・鼻・指などで得られた情報を記載します。
- 観察計画(O-P)の記載例
- バイタルサイン
血液検査の結果
呼吸状態、呼吸音
水分出納管理
皮膚の状態
下痢・嘔吐の有無
排泄物の色・性状
夜間の睡眠状態
倦怠感・脱力感の有無
援助計画(T-P)
援助計画(T-P)では、患者さんの看護問題を解決するため、看護師が実施すべき看護ケアを記載します。
- 援助計画(T-P)の記載例
- バイタルサイン測定
食事介助
トイレ介助
更衣介助
清拭
歩行介助
食形態の調整
輸液管理
体位変換
教育計画(E-P)
教育計画(E-P)では、患者さんや家族へすべき指導や教育内容を記載します。
- 援助計画(T-P)の記載例
- 病態の説明
退院後の生活指導
インスリン自己注射の方法教育
家族指導
看護計画の記載例
それでは、各項目のルールに則った看護計画の記載例をご紹介します。
今回は、「誤嚥リスクが高い患者」を想定します。
項目 | 記載例 |
---|---|
看護問題 | #1 誤嚥リスク状態 |
患者目標 | 長期目標:むせる事なく食事・水分摂取ができる 短期目標:嚥下体操の方法を理解して、食事前に1回実施できる |
観察計画(O-P) | 食事中の姿勢の観察 咀嚼と嚥下の様子の観察 食事の速度と量の観察 咳き込みやむせる回数の記録 声のかすれや食後の呼吸状態の観察 使用する食器の適切さの確認 口腔内の衛生状態の観察 意識レベルと認知状態の評価 食事前後のバイタルサインの測定 誤嚥を示唆する症状(例:発熱、呼吸困難)の監視 嚥下体操の実施状況を観察 |
援助計画(T-P) | 食事中の適切な姿勢のサポート 嚥下しやすい食事の提供(食事の固さ、温度の調整) 食事の速度を調整する 小さく切った食品の提供や、必要に応じてペースト状の食事への変更 食事介助 口腔ケアの実施 安全な食事環境の整備 誤嚥のサインに対する対応 水分補給の適切な管理 |
教育計画(E-P) | 嚥下体操の指導 正しい姿勢と食事の摂り方についての指導 家族への食事介助の方法と誤嚥予防策の説明 口腔ケアの重要性と実施方法の指導 誤嚥リスクが高い食品についての情報提供 嚥下障害に関する理解の促進 緊急時の対応方法(例:ハイムリック法)の教育 食事の準備と提供の方法についての指導 水分補給の重要性と適切な方法の説明 誤嚥を示唆するサインの認識と報告の促進 安全な食環境作りのための家族の役割の強調 |
NANDA-Iに基づく看護計画の記載例一覧
ルールや書き方を理解できたとしても、いざ実際の患者さんを目の前にすると作成方法が分からなくなってしまう人もいるでしょう。
そのような方のために、NANDA-Iに基づく看護計画の記載例を一覧にしてまとめました。
あくまでも一例なので、患者さん一人ひとりによって異なるということは前提でご活用ください。
まとめ
看護計画の作成は、患者さんに対する効果的な看護介入を計画的に行うための重要なプロセスとなります。
質の高い看護計画が作成できれば、看護診断の明確化、具体的な患者目標の設定、そして患者さんのニーズに応じた計画内容の策定を通じて、迷いのない自信を持ったケアを提供することができます。
この記事が、看護計画のルールを理解し、実践に活かすための一助となれば幸いです。
引用・参考文献
T. ヘザー・ハードマン 編,上鶴 重美 訳:NANDA-I看護診断 定義と分類 2020-2023.医学書院.